近鉄3-3九州電力(1954.01.05)

近鉄3-3九州電力(1954.01.05)
 
近鉄ライナーズの今回の入替戦の対戦相手が九州電力キューデンヴォルテクスとなりました。充分な準備をしてトップリーグ残留を決めて欲しいものです。
 
九州電力ラグビー部といえばオールドファンにはお馴染みで、近年は下部リーグに居ますが、この全国社会人大会では優勝1回、準優勝1回の実績があり、この2回の決勝進出の対戦相手がどちらも近鉄ラグビー部(近鉄ライナーズ)であるという縁があります。
 
本日は表題の通り、1954年(昭和29年)1月5日に静岡草薙ラグビー場で行われた第6回全国社会人ラグビーフットボール大会決勝で、近鉄と九電が引分け・両者優勝となった試合を振り返りたいと思います。

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九電はラグビー部の創部は1951年(昭和26年)ですが、会社の前身である東邦電力では横山通夫(後の日本協会会長)がラグビー部を作り、九州の草分けチームの一つでした。
 
戦後始まった全国社会人大会は第1回大会は配炭公団、第2回は三井化学、第3回から第5回までが八幡製鐵(三連覇)が優勝しており、すべて九州のチームでした。その中で九電は、配炭公団解体後に5選手を獲得、メキメキと強くなりました。
 
そしてこの第6回大会の九州予選の準決勝では三井化学を完封し、決勝では全国三連覇中の強豪八幡製鐵をも1PGを守りきって3-0で破っての初出場でした。当時はまだ全国8チームでの本大会でしたので九州からの出場枠は1チーム、前年優勝枠もなかったので、八幡を破らなければ九電は本大会へ出場できなかった時代でした。
 
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(大会直前の予想記事)
 
さて、本大会は1月1日に1回戦4試合、3日に準決勝2試合が行われ、近鉄と九電が順当に勝ち上がりました。
 
近鉄はまず北海道の住友奔別に快勝、準決勝では主力5人を休ませて愛媛教員クラブに快勝。九電のほうは1回戦で神戸製鋼を難なく破り、準決勝では関東の大学スター選手を掻き集めた「スター軍団」大映にも快勝しての決勝進出でした。
 
しかしここまでクジ運に恵まれ楽な相手に2試合をこなした近鉄に対し、九電の相手は決して楽な相手ではなく、体力の消耗度が決勝の試合内容に影響しないかと新聞では予想されていました。また九電は西郷(明大出)、伊勢(同大出)を中心にしたFW中心のチーム、近鉄も貝元(関学出)、中島(立命出)を中心とした強力FWで、勝負のカギはFWのルーズと予想されました。
 
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(決勝当日の予想記事)
 
さて、決勝は静岡草薙で午後2時30分からキックオフされました。九電は風上に陣を取り、近鉄キックオフで始まりましたが、ノット10mでセンタースクラム。初めてのタイト(セットスクラム)は互角のようでした。前日の雨でグラウンド状態はあまりよくなく、また両チームともバックスよりもFWでの勝負に出たようで、ヒールアウトしてもTBへ回すよりキックを多用してFWをなだれ込ませるという単調な試合展開となりました。
 
そんな中、前半19分に近鉄陣25ヤード中央で九電が得たPKからPGを成功させ、九電が先制しました。試合はそのまま展開しますが、後半に入ると九電に疲労の色が見え始め、近鉄FWが優勢で、ほとんどを九電陣内で試合を運びます。
 
しかし近鉄も決定力に欠け、このまま九電優勝かと思われた後半33分、九電陣25ヤード左でルーズが行われている間、九電CTBが中央で残ってしまい、近鉄がPKを得てPGを決めてようやく同点に追いつき、そのまま試合終了。
 
両チームのFWの善戦と固いディフェンスが目立った試合は、大会史上初めての引分け、両者優勝で幕を閉じました。
 
試合後、贈られた優勝盾は両チームで半分ずつに分け、残る半分を新たに継ぎ足して復元したそうです。

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(決勝後の両チーム記念撮影)
 
なお、この大会でこれまで全国3連覇をしていた八幡製鐵と戦うことなく初の栄冠に輝いた近鉄ですが、この大会後の2月21日には八幡製鐵に招待され近鉄が九州に遠征、40-6という大差で八幡製鐵を破りました。
 
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(トーナメント表。なお、愛媛教員は愛媛教員クラブ、日本軽金は日本軽金属、住友奔別は住友石炭奔別鉱業所、日鉱船川は日本鉱業船川製油所。)
 
■第6回全国社会人大会本大会決勝
日時:昭和29年(1954年)1月5日14:30
会場:静岡・草薙ラグビー
結果:近鉄(近畿日本鉄道) △3-3△ 九州電力
前半3-0 (近鉄000) (九電001)*
    後半0-3 (近鉄001) (九電000)*
    *()内の数字はT、G、PGの順。
主審:伊藤真光氏
 
近鉄メンバー: FW①土井圭作(近鉄教習所)、②中島義信(立命大)、③貝元義明(関学大)、④増田孝雄(天理高)、⑤貴志 篤(三尾高)、⑥藤田政信(三尾高)、⑦向出博之(明大)、⑧武田 明(尼崎高)、HB⑨門戸良太郎(同大)、⑩山田満久(西京高)、TB⑪大江賀寿雄(日大、C)、⑫野田正夫(西京高)、⑬甲佐史郎(阪大)、⑭深田広治(尼崎高)、FB⑮森田重雄(天理高)。
 
九州電力メンバー:FW①蓑田傳(西南学院大)、②藤村博(修猷館高)、③三苫(修猷館高)、④中川海(修猷館高)、⑤伊勢幸人(同大)、⑥小出勝昌(西南学院大)、⑦西郷一郎(明大)、⑧高橋逸郎(明大)、HB⑨川内健一郎(福岡高)、⑩松岡晴夫(明大)、TB⑪牧仰(立教大)、⑫加勢田太郎(西南学院大)、⑬吉井道夫(大淀高)、⑭三浦包治(都城泉ヶ丘高)、FB⑮田中貞朗(福岡高、C)。
 
参考資料:
RUGBY FOOTBALL」日本ラグビーフットボール協会機関誌VOL.3-4(1954年1月) p25
RUGBY FOOTBALL」日本ラグビーフットボール協会機関誌VOL.3-5(1954年3月) p34-p36
日比野弘の日本ラグビー全史」p264
「全国社会人ラグビー大会50年史」p66-p69)
近鉄ラグビー50年史」p62-p65