中部自衛隊ラグビー部(5)突然の解散とその後の選手たち

中部自衛隊ラグビー(5)突然の解散とその後の選手たち
 
★突然の解散
1972年度(昭和47年度)12月14日、秩父宮で行われていた第16回全自衛隊ラグビー大会の準決勝で、優勝候補だった中部自衛隊が東部方面隊に食い下がられ、7-7の引分け。決勝進出チームを決める抽選となり、主審が勝負を記した2枚の封筒をジャンケンで勝ったチームから引かせたところ、東部の勝利となりました。
 
その直後中部自衛隊19歳の選手が主審に殴りかかり、あわてて自衛隊関係者もその選手を引き戻し、試合の責任者である防衛庁教育課課長が関東協会レフリーソサイティ幹事長に謝罪、調査の上厳重処置することを約束して2日後の16日に書面を日本協会に提出することになりました。
 
16日に防衛庁より日本協会に「深く陳謝すると共に、本人と中部自衛隊チームを今後6ヶ月謹慎させる」との文書を提出。これより先に中部自衛隊は関西協会に対し、17日に予定されていた関西社会人リーグの京都市役所戦の辞退を申し入れ、関西協会はこれを受理し試合を取り消しました。
 
20日および21日、関西協会では理事会を開き、防衛庁から日本協会へ提出された書類、中部自衛隊からの事件経過の報告書などを検討し、前代未聞の不祥事を起こしたチームおよび個人の責任は重いとして、防衛庁処分より重い「チームには1年間の出場停止、当該選手には2年間の出場停止」を決定しました。中部自衛隊側からも「深く反省する意味でチームとして1年間謹慎、個人についてはそれ以上の処分にしたい」という申し入れがされていました。
 
その後、1月4日には陸上自衛隊中部方面総監部は中部自衛隊チームを解散すると発表。この結果、中部自衛隊チームは関西社会人リーグや全国社会人大会から姿を消すことになりました。また他の選手たちは3月中旬の移動で、各地のチームのある部隊に転属することになりました。
 
当時主将だった芝義夫選手は「チームを解散したときは全員が一睡もせずに泣きました。」と後年語りました。
 
非常に残念なことになりました。
 
近鉄をはじめ、関西社会人Aリーグを「日本最強のリーグ」と言われるまで支えてきたチームのひとつが突然解散となってしまうこと、しかも一選手の一時の感情を抑えきれずに行った、いや行おうとした行為で、このような事態になってしまうとは非常に残念でした。
 
多分、当該選手は単に抽選結果だけに激昂したのではないと思いますが、想像の域を超えませんし、「暴行しようとした」こと自体、当時では前代未聞の大問題でしたから「チーム1年間・個人2年間」というのも仕方ないと思います。
 
さらに、今から考えると1970年前後というのは安保・ベトナム戦争学生運動など社会では色々な意味で色々な思想信条が交錯した時代で、「自衛隊が暴力」などということになると防衛庁としても事態は深刻という思惑もあったのだと思います。
 
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★その後の選手たち
中部自衛隊が解散した翌シーズン、1973年度(昭和48年度)の第26回全国社会人大会での1回戦、四国香川の善通寺自衛隊トヨタ自工の試合がありましたが、この対戦は4年前の第22回大会でトヨタが92-0という記録的な点差で大勝しており、今回もトヨタが大勝すると思われていました。
 
しかし今回の善通寺自衛隊には中部の解散でラグビーが出来なくなった選手12人が転属していました。再びラグビーが出来る喜びと共に、身を持って強さを知っている強豪トヨタ自工戦の直前「捨て身で行こう」と言い合って試合に臨みました。
 
試合は前半善通寺の迫力にトヨタは劣勢、6-4の善通寺リードで前半を終了。この試合は花園の当時の第3グラウンド(現在の第2グラウンド)で行われていたのですが、同時進行中の第1グラウンド(釜石84-0鹿児島教員)が一方的な試合になった事もあり、この試合でトヨタの思わず苦戦、善通寺の頑張りに、大勢のファン達が第1グラウンドから移動してきて、観客席の無いロープを張っただけの第3グラウンドが見る見るうちに大観衆になりました。
 
試合は後半中盤まで四転・五転するシーソーゲームでしたが、中盤以降トヨタにFW戦で力でねじ伏せられ、最終的には善通寺10-26で破れましたが、記者達は善通寺の選手たちを囲み、観客からは拍手の嵐でした。試合後、芝義夫選手(善通寺でも主将)は「きょうはチーム名は消えても中部魂は消えない、を合言葉にがんばりました」とインタビューに答えました。
 
中部自衛隊というチームはなくなりましたが、地元であった関西のファンの前で「中部魂」を再び見せることができしました。
 
善通寺自衛隊トップウエストで現在も頑張っています。私は善通寺とか信太山という地名を見聞きすると、いつも約40年前の中部自衛隊のことを思い出します。
 
おわり
 
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